[4.3] ありえない夢


第1幕


第1場-いかがわしいモーテルの部屋


フレイジャーはモーテルの部屋でベッドに横たわって眠っている。目覚めて、腕に刺青が「チェスティ」と入っているのに気づく。ベッドの向かいのテーブルには半分空になったテキーラの瓶が。シャワーの水音がするが、突然止まる。フレイジャーは枕を重ねた上に身を預けて、頭の後ろで手を組み期待して待つ。
浴室から出てきたのはタオル1枚だけをまとったギル・チェスタートン。

ギル:だ〜れだ!
急に場面転換
フレイジャーはベッドから起き上がる—自分のベッド。上のシーンは夢だった—フレイジャーの怯えきった反応からすると、つまりは悪夢だった。

溶暗

何でギル? なぜ今?

第2場-KACL


フレイジャーはかけ手の男の子ジミーと話している。
ジミー:[声のみ]要するに問題は親なんだ。何ていうかさ、親がホントにバカみたいなんだ。
フレイジャー:[うんざりして]年齢を聞いてもいい?
ジミー:14。
フレイジャー:そのまま聞いててね、ジミー。ご両親はあと7年くらいはずっとバカだよ。
ジミー:ウソだろ! 7年も? それって僕がこれから高校行くよりも長いじゃん!
フレイジャー:楽天的でおめでとう。[電話を切る]続きはコマーシャルの後で。
放送を切ると、ロズがフレイジャーのブースに入ってくる。

フレイジャー:ああ、ロズ。親にうんざりの十代少年? 頼むよ。もうちょっとマシなやりがいのあるのは見当たらなかったの?
ロズ:それが、彼か、常連さんの泣きのルディかどっちかだったのよ。
フレイジャー:ああ、泣きのルディ。全く。先月は3回も話したよ。言ってやれよ、泣いてるのはおまえだけじゃないって。ホント、干上がっちゃってるよ。真に悩める魂はいったいどこに? 真の絶望の淵に面している人々はどこに?
ロズ:そのうち来るわよ。もうすぐ休日だし。
フレイジャー:ああ、たぶん君の言うとおりさ。ね、ロズ、ちょっと質問があるんだけど。
ロズ:何。
フレイジャー:君は今まで、誰かのなじみ深い姿を何度も夢に見たこと、ある? …、何ていうか、同僚とか?
ロズ:[うんざりして]何よ。何で言うのよ?
フレイジャー:いや、ロズ!
ロズ:もうやだー、これからあなたがガラスの向こうから私を見るたびにゾーッとしちゃうわ!
フレイジャー:ロズ、君じゃない!
ロズ:[好奇心をそそられて]じゃ、誰よ?
フレイジャー:まあ、詳細には立ち入るつもりはない。
ロズ:経理のジーナ?
フレイジャー:言ったろ、立ち入らないって!
ロズ:シーラ、あのノロマの研修生?
フレイジャー:僕の言ったことは、忘れてくれ。
ギルが入ってくる。背中に何か隠している。
ギル:トントン…。
フレイジャー:[突然ソワソワして]ギル?[ロズが疑わしげにフレイジャーをジロジロ見る]
ギル:フレイジャー、あなたを誘惑しにきたの。
フレイジャー:[怯えて]ホントに?
ギル:シェ・シェアの新しいパティシエのレビューを書いてるところなの。[エクレアを出してみせる]それでこう書くつもりなの。「彼のアマレット・エクレアはそれは罪作りなくらいぜいたく、あなたはそれを口にしたら、ご近所の司祭様の元に急ぎ、罪の赦しをいただくのだ」
フレイジャー:えーっと…、いや、いいよ、ギル。ダイエット中なんで。
ギル:あら、何言ってるの! ほしいくせに…。
フレイジャー:[飛び上がって]いや、いやいやいや…、本当にいらない![ギルをドアから追い払って]行ってくれ。じゃまた。
ロズ:[興奮して]まあ、やだあ!
フレイジャー:何?
ロズ:ギルだったのね!
フレイジャー:そんなことはひと言も言っていない!
ロズ:じゃあ何で赤くなってるの?
フレイジャー:何だと、バカなこと言うな!
ロズ:耳まで真っ赤っ赤よ!
フレイジャー:赤くなんてなってない!
ロズ:なってるって!
するとギルが窓をノック。二人がギルを見ると、ギルは大きな口でエクレアにかぶりつく。フレイジャーはあわててブラインドを閉め、ロズは笑う。
フレイジャー:でも赤くなんてなってない!
溶暗/場面転換。次のかけ手は泣きのルディ。
ルディ:[声のみ]…、病院のベッドに、ただ横たわってるんです。彼女は枕から頭を上げて、見上げて言いました「愛してるわ」って。それから逝ってしまいました。[泣く]
フレイジャー:ルディ、泣くのはやめましょう。前にもこのことを話し合いましたよね。悲しい映画について、私たち、どういう約束にしましたか?
ルディ:見ない方がいいって。[泣く]
フレイジャー:そのとおり。さ、冷たいタオルを取りに行って、泣きはらした目をさましてみましょう。お願いですから…、悲しいことや憂鬱になることからは離れて下さい…、この瞬間で言えば、ドクター・フレイジャー・クレイン・ショーを聞くことも含めてですね。[電話を切る]さて、ニュースに移ります。今日はこれでおしまいです。ドクター・フレイジャー・クレインでした。
[放送を切ると、ロズが入ってくる]ああ、何てことだろう! さて、記録ノートを閉じよう。フレイジャー・クレイン・ショー史上最高につまんなかった回だった!
ロズ:あら、何を言ってるの。そんなにひどくはなかったわよ。外見が気になりすぎて家から出られなかった女性のときを思い出してごらんなさいよ。
フレイジャー:あれはコマーシャルだったの! クレイロールちゃんが問題を解決してくれたさ! さて、また明日。[出て行こうとして、振り返る]あっ! ちょっと、ロズ…、さっき言った夢の話…、えーっと…、言わずもがなだけど、他言無用だからね。
ロズ:あら、もちろん。
ベティ:[通りすがりに]あら、夢のお方!
フレイジャー:[ロズに向かって]やってくれたな! そのでか口を閉じておけなかったのか? 話を広める時間がどこにあったかだけでも不思議だよ!
ロズ:私があなたの番組を聞いてるなんて思ってないでしょ?
ブルドッグが入ってくる。
ブルドッグ:通してくれ! やあ、センセ…、またあのことちょっと思い出しちゃった…。
フレイジャー:わかったよ、いいか、ブルドッグ…、僕を笑いものにしないうちに言っておくけど、そ、おっしゃるとおり。ギルの夢を見たよ。それから、確かにややエロチックな要素もあった、でも…。[ブルドッグの驚いた表情に気づいて]君は僕の言っている意味が全然わかんないよね?
ブルドッグ:今わかったぜ! うひょー![笑う]
フレイジャー:いいか、すぐ忘れよう。じゃあさっきの僕をバカにするお楽しみは何だったんだ?
ブルドッグ:ああ、俺、今日のあんたの番組は俺の眠気メーターを振り切ってくれたって言おうと思ってたんだ、でも今じゃ、あんたがギルのクッキー天板に油を塗る話を聞きたいよ![ラッパをブー]
フレイジャー:地獄行きのバスに乗っちまった。
場面転換

精神分析医…、クレイン…。フレイジャー…、ナイルズ…、バカ者たち

第3場—カフェ・ナヴォーサ


フレイジャーとナイルズがカウンターに立っている。ナイルズは話をしているがフレイジャーは退屈している。
ナイルズ:それで僕はクリーニング屋の所にまた戻ってさ、3回目。話を終わりまで言う必要なさそうだね。
フレイジャー:言ってくれ、いつ終わるかを。
ナイルズ:[むっとして]いいよ。ヤツらは僕の服のひだを整え直したの、おしまい。
フレイジャー:ごめんよ、ナイルズ。[二人はコーヒーを受け取ってそばのテーブルに座る]今日はちょっと気もそぞろなんだ。いいかい、今朝、あー…、アパートの建物から一人の男性が僕に近づいてきて、非常に興味深い問題を告げたんだ。どうやら彼は何度も同じ夢を見ているらしい。
ナイルズ:兄さん、頼むよ。そのつまんない作戦はもう僕たちがハイソックスを履いていたころに無効だよ。で、兄さんはどんな夢を見たわけ?
フレイジャー:ああ、わかったよ! ずっと苛まれているんだ。ここ数週間、眠れていない。はっきりしないところもあるんだが…、夢はいかがわしげなモーテルの部屋から始まる。僕は裸でいる。
ナイルズ:面白い。
フレイジャー:ああ、それで…、僕は寝返りを打って、腕に刺青が入っているのを見つけるんだ。「チェスティ」って彫ってある。
ナイルズ:面白い。
フレイジャー:そしたら、シャワーが止まって、浴室から出てくるのが…、男なんだよ。[]わかった、続けてくれ、受けて立つよ!
ナイルズ:それ、今言ったこと? それとも夢で言ったこと?
フレイジャー:[イライラして]頼むよ。わかりきったことに時間をムダにするほどバカじゃないだろ。
ナイルズ:そうだ。でもわかってるかな、すごく好奇心をそそられちゃうよ。[クスクス笑う]
フレイジャー:やめてくれない? ユング派の解釈では明らかに大笑いものなんだろうよ。夢の中での性衝動は間違いなく何らかの深い所にある非性的葛藤の象徴なんだ。
ナイルズ:わかった。
ギルが気取ったニヤニヤ笑いでテーブルに近づいてくる。
ギル:こんにちは、フレイジャー。
フレイジャー:ギル。
ギル:かわいい小鳥ちゃんがね、あなたの深夜映画に私が出演してるって言うの。
フレイジャー:気が利くね。あっちに行け。
ギル:いいわよぉ。また明日。それともこうかしら、「夢で会いましょう」?[出て行く]
ナイルズ:その兄さんの夢には、葉巻か、バナナ、あるいは短いなまくらの剣などは出てくるの?
フレイジャー:いい加減にしてくれる?! 僕は43だぜ。潜在期にゃかなり遅い。
ウェイトレスのレベッカが近づいてくる。
レベッカ:ほかにご注文などは?
ナイルズ:いや、結構。
フレイジャー:[からかって]おや…、新顔かい。君みたいなカワイ子ちゃんだったらまちがいなく憶えてるはずだからね。
ナイルズ:過剰補償。
フレイジャー:わかった。僕らはこれで結構。さよなら。[彼女は去る]僕はもう参ってるんだ、ナイルズ。明らかに、ギル・チェスタートンは「チェスティ」の解釈になるが、他はほとんどわからない。
ナイルズ:たぶん、自由連想から取り組むべきだよ。
フレイジャー:ああ、そうせざるを得ないか?
ナイルズ:さて、と…、モーテルの部屋の、何でもいい、細部に焦点を当てよう。心に最初に浮かんでくるのは何?
フレイジャー:えーと…。三日月型のランプ。
ナイルズ:完璧だ—三日月型のランプ。そこを手がかりに進めようよ。三日月…、月…、ダフネ・ムーン…、フランス人のメイド…、真鍮の寝台…、繻子織のローブ…。
フレイジャー:ナイルズ! 僕の夢だぞ!
ナイルズ:やり方を見せようとしただけだよ。
フレイジャー:お前の方がシガレットから3単語分しか離れてないんじゃないの!
ナイルズ:[憤慨して]兄さんの番だよ!
フレイジャー:わかった。
ナイルズ:三日月型のランプ。
フレイジャー:三日月…、クロワッサン…、バター…、あんずジャム…、空腹…、食べ物…、ダイエット! そうだ、僕はダイエット中なんだ。このことは役に立つと思う?
ナイルズ:2、3ポンド減量するくらい平気でしょ。
フレイジャー:ちょっと待てよ。ギルはレストラン評論家だ—グルメだ。たぶん、ギルは、僕が自分で拒んでいる食べ物の象徴なんだ。
ナイルズ:それで、なぜ兄さんが夢で裸だったかの説明になるよ。僕らが自分の体に最も自意識を持つのは裸になったときだ。
フレイジャー:そうだ、それから僕らの外見についてのラベルを「刺青で刻み込む」社会のやり方に対して最も無防備になってる! ああ、これだよ、ナイルズ! この夢は、単に僕がダイエットに厳し過ぎるってことを伝えていたんだ!
ナイルズ:まあ、今晩わかるさ。これが正しい解釈だったら葛藤は兄さんの無意識から去って意識の方に来たはずだ。
フレイジャー:そうだ、夢は目的を果たしたんだからな。
ナイルズ:そしてもう金輪際この夢に悩まされることもない。
フレイジャー:ああ、よかった、ナイルズ。うまくやっつけたよ、本当に。ようやく、この数週間で初めて、テキーラの瓶ともおさらば、刺青ともおさらば、ベッドの半裸男ともおさらばだ。[目を上げてレベッカがテーブルの傍に立っているのに気づく]さて、すると、ラビはこう言った…。
場面転換

第4場—モーテルの部屋


再びフレイジャーはベッドにいる。テキーラの瓶はまだあり、まだ刺青もしている。シャワーが止まって、ナイスバディな女性がタオル1枚だけを身に着けて出てくる。フレイジャーはうれしげに驚く。
女性:あら、ごめんなさい…、部屋を間違えたわ。[去る]
フレイジャーはがっかりした表情になる。突然、ギルが現われて、隣に寝ている。
ギル:やだわ。ほかのモーテル探しましょ。
急に場面転換
フレイジャーはまたあわてふためいて夢から覚める。自分の隣りに何か布団に隠れているのに気づく。用心して布団を引き上げると、エディが現われる。フレイジャーはすっかりクサる。

第1幕了


第2幕


第1場-エリオット・ベイ・タワーズのエレベーター


ダフネとマーティンはエレベーターの後ろ側にいる。ドアが開いて女性が乗ってきて、ダフネとマーティンの前に立つ。ダフネは挨拶し、二人は少し黙る。それからダフネとマーティンは陰謀を企むような調子で会話し出す。
ダフネ:夕べ誰かが私をつけてきました。
マーティン:ちぇっ、被害妄想だろ。
ダフネ:言いましたでしょ、あいつらはわかってやってるんです。
マーティン:何言ってんだ。完全に整形したんだ、誰もわからんよ。
女性はこれを聞いて警戒の身振り。
ダフネ:それがマリーナが考えたことなんです。
マーティン:マリーナはだらしない。チューリヒに戻るべきじゃなかったんだ。
ダフネ:これ以上血の雨を見たくないだけですよ。
マーティン:楽にしろよ。成功目前なんだ。
ダフネ:あなたはウッドチャックも、彼のやり口も知らないんです。
ドアが開いて、女性は怖がって大急ぎで逃げ出す。マーティンとダフネは笑い転げる。
ダフネ:もう、私たちってヒドイ!
マーティン:私たち? 君だろ!「ウッドチャック、彼のやり口」だってさ!
ダフネ:でも、私たち、ホントにこれ、もうやめるべきです。よくないことです。
マーティン:ああ、そのとおりだ。もうやめよう。
ドアが開いて、男性が入ってくる。
ダフネ:[ドアが閉じるや否や、マーティンに向かって]どうやってブツを税関から取ってきたんですか?
マーティン:ヤツらは木の義足までは調べないんだよ。
場面転換
フレイジャーのアパート。フレイジャーは居間を行きつ戻りつ、ナイルズはソファに座って、心理学の教科書を詳細に調べている。

フレイジャー:答はあそこのどこかにあるはずなんだ!
ナイルズ:ここにある。[読み上げて]「願望の充足としての夢」。
フレイジャー:[本をつかんで]先に進んで。
ダフネとマーティンが入ってくる。
ダフネ:あらまあ、まだお二人ともそこに?
マーティン:何に取り組んでるんだ?
フレイジャー:別に。
ナイルズ:フレイジャーが見た夢を解釈するのを手伝ってるんだ。そうだ、きっと父さんが助けてくれるよ。
フレイジャー:[警戒して]いやいやいや…、この夢については細々したことで父さんを煩わせたくないよ。
ナイルズ:夢は幼少体験に基づいている場合があるんだ。兄さんが抑圧している何かを父さんが憶えているかも知れないよ。
マーティン:そんなこた知らんよ。お前たちが子供時代のことって言うんなら俺だって相当抑圧されてるぜ。[台所に去る]
フレイジャー:ナイルズ、こりゃ父さんに知ってもらいたくない夢なんだよ、わかってくれよ。
ナイルズ:うーん、もうあれもこれも、解釈は出尽くしちゃったじゃないか。だから願望充足の夢ってところに戻ると思ってさ…。
フレイジャー:ああ、父さん…。[フレイジャーが台所に行くとマーティンがサンドイッチを作っている]悪いけど、僕の夢を聞いて僕の子供の頃のことを何か思い出せるか考えてくれる?
マーティン:何を言ってるんだか。たかが夢に期待しすぎだよ。夢だよ。夢なんてヘンチクリンなものさ。
フレイジャー:頼むよ、父さん。本気で悩んでるから聞いてるんだ。
マーティン:まあ、じゃあ言ってみろ。
フレイジャー:わかった…、小さなモーテルの部屋から始まるんだ。僕の腕には—「チェスティ」って刺青が彫ってある…。
マーティン:な? ヘンチクリンだろ。
フレイジャー:うん。それで、浴室から出てくるのが…、よし、続ける前に、言っておくけどこれは夢だからね。現実と混同しないでね。[マーティンはうなずくが、それでもサンドイッチを作る手を休めない]浴室から出てくるのは、男…。[マーティンの心配そうな表情を見て方向転換]を食べる人食いライオンなんだ!
マーティン:[ホッとして]な、言ったろ? またヘンチクリンな話さ。いいか、夢は来て、去る。意味なんかないよ。ただ運がよけりゃときどきはとっても面白いのもあるけどな。例えばさ、ワールドシリーズでホームランを打ったとか、ジェーン・マンスフィールドとジャングルにいたら彼女が蛇に咬まれたとかさ。
フレイジャー:ありがとう、父さん。
マーティン:ジェーン・マンスフィールドは知ってるな?
フレイジャー:ああ、父さん。
マーティン:蛇に咬まれたら何をするか知ってるな?
フレイジャー:ああ、父さん。[去る]
マーティン:[自分に向かって]あの晩の食事が何だったか思いだせたらな。
フレイジャーが居間に入るとナイルズとダフネがソファにいて、フレイジャーの夢についてしゃべっている。
ダフネ:あっ、わかりました。チェスティはギル・チェスタートンさんのことですね。
フレイジャー:ナイルズ、この噂好きの魚行商女め!
ダフネ:[立ち上がって]恥ずかしがることはありません、クレインさん。誰だってそういう夢見ます。私なんか、前、ルームメートの女の子の夢、見ました—体操選手だったんですけど。
ナイルズ:[立ち上がって]話してごらん、ダフネ。大事なことかも知れない。
ダフネ:えーっと、憶えてるのは、体育館でストレッチをしてたんです、そしたら突然、私たち、全部服を脱いで、トランポリンで跳ぶことにしたんですね。[クスクス笑う]そしたら聞いて下さいよ、私、鞍馬をグルグル回って彼女を追いかけてるんです。あ、気にしないで下さい…。
ナイルズ:[興奮して]そこでやめないで![二人の目つきで言葉を止めて]役に立つかも知れないから。[座る]
ダフネ:まあ、実際、私はフレイジャーさんの夢について自分なりの意見を持ってます、お聞きになりたければ。
フレイジャー:もうどうにでも。
ダフネ:えーっとですね…、あなたの夢でシャワーにいたのは誰でした? ギルですよね。シャワーとは何か? 流れる水です。水が必要なのは誰でしょう? おさかなです。おさかなが持っているのは何でしょう? エラ[訳注:Gills=ギル]です! 私の言わんとするところ、わかります?
フレイジャー:頭がヘン?
ダフネ:これは、子供の頃かわいがっていたペットがいなくなったことについての夢かも知れません。
マーティン:[エディと一緒に台所から出てくる]ありがとな、エディ。公園に45分いたんだから行く必要ないんだ。俺がサンドイッチを一口かじったら俺のことを見るんだから。
ダフネ:クレインさん、ドクター・クレインは金魚を育てていたことがありますか?
マーティン:魚か?
ダフネ:ええ、ペットとして。
マーティン:俺は知らんな。そんなこたヘスターの担当だったからな。[エディに向かって]おいで、行こう。[出かける]
ナイルズ:フレイジャー、僕が何を考えてるか、考えてる?
フレイジャー:父さんは犬の目つきを理解できるのに、僕らの子供の頃の思い出はまばらにしか憶えてないってこと?
ナイルズ:違うよ。違う、違う。ヘスター—ヘスティ。あの刺青—チェスティから一文字取り去るだけじゃないか!
フレイジャー:ナイルズ、あの夢が母親に関するものだってこと?
ナイルズ:どう?
フレイジャー:僕はきっと刺青を読み違えたんだろう。[シャツの袖をまくり上げる]そうだ、そうだ…、この腕のここのしみの形を「C(シー)」と読み違えたんだろう。
ダフネ:[訳注:sea(シー)]で泳いでいるのは何でしょう? おさかなです![二人の目つきで言葉を止めて]わかりました、わかりましたよ、もう退散します。[自分の部屋へ帰る]
ナイルズ:さて、それで刺青は「ヘスティ」ってことかも知れない。でも問題は、父さんが母さんをそう呼んでた記憶がないんだ。
フレイジャー:でも呼んでなかったと言い切れるか?
二人は息を呑んでエレベータに向かって走ると、マーティンはまだエディと待っている。
二人:父さん、父さん!
マーティン:何だ?
フレイジャー:母さんにニックネームをつけたことある?
マーティン:全く、何を言い出すんだか! あのバカげた夢のことか?
フレイジャー:父さん、これは本当に大事なことなんだよ!
ナイルズ:愛称はなかった? 愛情表現の言葉とか?
マーティン:うーん…。結婚した当初は「ハニー」と呼んでたな。それから…。その後、母さんを「スウィーティ」って呼び始めるまでちょっと間があいたな。
フレイジャー:その両方とも背後には実に面白い秘話があるのは間違いないね。でも母さんを「ヘスティ」って呼んだことはある?
マーティン:「ヘスティ」?
フレイジャー:[力を込めて]さあ来い、思い出せ! 一度でもいいんだ! 一緒に住んでた長い間に一度でもあったかって聞いてんだ!
マーティン:[ソワソワして]えー、そんな…。わしゃわからん。[エレベーターのドアが開く]ひょっとしたらな…。
フレイジャー:ホント?
マーティン:ああ、もしかしたら一度くらいはな…。[エレベーターによろめき入るが、困っている]
フレイジャー:ああ、ありがとう、父さん![ドアが閉まる]さあ、これだ! 僕も、父さんが母さんを一度は「ヘスティ」って呼んだのを聞いたことがあるに違いない、だがあっさり潜在意識にしまい込んでしまったんだ。
ナイルズ:そうだとも、明らかなことだ! ギルは食べ物の批評家だ。食べ物、批評…。
二人:母親!
ナイルズ:こりゃ古典的なオイディプスの夢だ!
フレイジャー:そうだ、そうだ…。僕は、母親と一緒にいたいという性的衝動にぎょっとしたもんだから母さんを男に代えてしまったんだな! ああ、これで胸のつかえが降りた! 何でもないことにやきもきしてたんだ。つまり、もういいんだ。僕は、死んだ母さんとセックスしたいってだけのことだったんだ!
フレイジャーが振り返ると、女性がエレベーターのドアの傍に立っていて彼の言葉をたまたま聞いていた。フレイジャーはおとなしくなってアパートの部屋に入る。
場面転換


第2場-例のモーテルの部屋


今回の場面では、フレイジャーが寝ているベッドの上にバナナと剣の絵が掛かっているのがわかる。フレイジャーは目覚めて、「チェスティ」の刺青が依然として腕に彫られておりシャワーの水音がするのを知る。彼は不機嫌になる。シャワーが止まって、フレイジャーは心配そうに浴室のドアを向く。
フレイジャー:ママ? 母さん?
ギル:[入ってきて]まあお待ちなさいよ、パパ!
急に場面転換
フレイジャーはまた怯えて夢から目覚め、寝室の灯りを点ける。
場面転換


おお神よ、彼は例の「母」の件では間違っておりました

第3場-フレイジャーのアパート。


真夜中。フレイジャーは台所のテーブルで教科書を丹念に調べている。マーティンが自分の部屋から出て呻きながら入ってくる。
マーティン:お前は今頃、わしが寝る前に3本目のスリム・ジム[訳注:ジャーキーのようなスナック菓子]を食べるほど分別がないわけじゃないと思ってるんだろ。お前も眠れないのか、あん?
フレイジャー:いや。正直言うと、眠りに戻るのが何だか怖いんだ。またあのとんでもない夢のせいさ。
マーティン:何だ、何を気にしてるんだ? ただの夢さ。最悪、人食いライオンがお前に飛びかかってひどい目にあわせるってくらいさ。
フレイジャー:ごめん、父さん、前に言ったのは完全に本当ってわけじゃないんだ。あの夢は本当はモーテルの部屋に男友達と一緒にいるってものなんだ。ギル・チェスタートンとね。
マーティン:俺、また寝に戻っていいかい?
マーティンは気もそぞろにテレビをつける。フレイジャーがすぐ消す。
フレイジャー:父さん、お願い、僕は本当にこのことについて話したいんだ!
マーティン:ごめんだ、フレイジャー、頼む。わしゃそういうのはすごく苦手なんだよ。[マーティンは台所に入り、フレイジャーも続いて入る]
フレイジャー:父さん、頼むよ…。
マーティン:わかった、わかったよ…。お前の世代では、男同士は何でも話し合えるんだろ。何もかもすっかりオープンでさ。[神経質に冷蔵庫やカウンターの表面を拭き始めるが、目を見ようとはしない]わかってるだろうが、俺が頭がヘンになりそうなのは、お前たちがみんなお互いに触り合うそのやり方なんだ。誰もかも抱き合ったりさ? 俺の時代にゃ、そうだな、握手だよ。それで十分だったのさ。たぶんお前たちは誰かに特別に親近感を感じたら、そいつの肩をさわるだろ、でも2秒を越えるこたあない。フットボールの選手がケツとかを叩き合うことを言ってるんじゃないぜ、それは違う—スポーツだからな、戦争と似たようなもんさ。じゃな、お休み、フレイジャー。[居間へ去る]
フレイジャー:父さん…。!
マーティン:いいか、俺に何か話したいんだったら、付箋紙に書いて冷蔵庫に貼っといてくれ。
フレイジャー:父さん、僕はホントにこの話をしたいんだ![マーティンはとうとう立ち止まって、フレイジャーと向かい合う]僕はもうこの夢の可能性のあるあれやこれやの解釈にはへとへとになってしまったんだ。僕の潜在意識が僕の性的嗜好について何かを告げようとしてるってことはあるんだろうか?
マーティン:そりゃバカげてるよ!
フレイジャー:そうかな? 僕は子供の頃、敏感だった。スポーツも好きじゃなかったし。ああ、本に出てくる常套句さ。間違いなく、何らかの点では父さんにも思い当たる節があるんじゃないか? 僕の8歳の誕生日に「ウェストサイド物語」に連れてってって言ったのにダメって言ったろ。
マーティン:それは、ワルの映画だからだよ。子供にはおっかなかろうよ。
フレイジャー:ダンスするワルでも?
マーティン:ダンスするワルは特にダメさ![言葉を継いで]わかった。ああ…。そうだ、確かに、俺もそのことは考えた。でも違う、フレイジャー、違うんだ…。俺はそんなことは信じないよ。なぜかわかるか? 今だったらわかるだろ。お前の無意識とか何でもいいがお前らが言うその厄介者が喚き散らすのは、お前のそれ以外の部分が喚き散らすのと同じだよ。
フレイジャー:父さんの言うとおりだと思うよ。
マーティン:よし。じゃあな、いいか、もう3時を過ぎた。明日の番組の前にすっかり疲れ果ててしまうぞ。
フレイジャー:そりゃ大変なこった。
マーティン:今度は何に文句をつけてるんだ?
フレイジャー:ああ、わからない、ただ最近、本当に面白い電話が全然ないんだ。もう精神分析に飽き飽きしてるんじゃないかって、もうわからなくなりかけてるんだ。[テーブルに座る]
マーティン:なあお前、そんなに本にばっかり鼻を突っ込んでいちゃわからないさ。
フレイジャー:そうだね。この夢の唯一の救いは、僕の分析的筋肉をちょっとほぐすいい機会だってことだ。
マーティン:そうか、たぶん結局はそんな悪いことじゃなかったろ。
フレイジャー:ちょっと待って。つまりそれが結論ってこと? 僕は最近自分の番組であまりにも知的につまらない思いをしすぎたもんで、心が困難な問題を持ちかけるためだけに解釈を許さない夢を作ってみせたということ?
マーティン:知らんね。話を続けてくれ、眠くなるから。
フレイジャー:父さん、いや、きっとそうだよ![立ち上がって]僕の番組は、僕の技量に見合った患者を一人として与えてくれないんだ、それで自分で考え出したんだ—この僕という患者を! そうか! そうだったのか。ついに、最終的に、寝るよ。父さんは真実の啓示の顕現を目撃したんだ![廊下に行きながら]
マーティン:そりゃ驚いた、テープに録画しとかなきゃ。
フレイジャー:[画面から消えて]さあ戻ろう。眠ろう、夢を見ないように[訳注:ハムレットの台詞のもじり]
場面転換

第4場-モーテルの部屋


フレイジャーはまたベッドにいて、眠っている。目覚めて、刺青がもうなくなっていて、テキーラの瓶もなくなっているのに気づく。起き上がってシャワーの音がしないか耳を澄ますが、何も聞こえないので、ホッとしてまた横になる。突然、ドアにノックの音。フレイジャーは驚いて起き上がって「どうぞ」と言う。男性が入ってくる。精神分析医、ジグムント・フロイトである。
フロイト:ドクター・クレイン、ドクター・ジグムント・フロイトです。
フレイジャー:ああ、何てことでしょう![握手をする]本当に光栄です!
フロイト:私こそ。私はあなたに複雑な精神分析学的問題を与えましたが、あなたはそれを解きました。あなたは優れた精神分析医です。
フレイジャー:そんな、喜んじゃいますよ。やあ、お尋ねしたいことが山ほどあるんです!
フロイト:まあまあ、そのうち、そのうち。今は、もっと大事なことがあります。
何かの口臭消臭剤を取り出してお口に噴射。フレイジャーが仰天したことにフロイトはフレイジャーのいるベッドに入ってきて横たわり、抱き合おうと腕を広げる。
場面転換
フレイジャーのアパートの建物を外から見た場面。19階の部屋の灯りが一つだけつくのが見える。フレイジャーは、再び眠れない夜を過ごすことになるらしい。
[原注:フレイジャーのトリビア通のために付け加えておくと、フレイジャーのアパートを外から見た場面はここが最初で最後。
]

第2幕了


エンドロール

時計は3時10分を指している。エディはキッチンにいて何度も飛び上がって、カウンターの上のマフィンを頂戴しようとしている。次いで、エディはソファで寝ていて夢を見ていたことがわかる。エディはソファから飛び降りてキッチンに急ぐ。飛び上がってマフィンを取ろうとするが、そこにはない。最終的にエディはふくれて居間に戻り、くじけて横になってしまう。

[原注:この夢に使われた場面はエピソード[2.2] "Author, Author"の終りの部分と全く同じ。]
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